側面板&裏板について

あたかも、クラシックギターハカランダローズフラメンコギター糸杉(シプレス)で作る規則があるかの如く、現在、世界のギターの使用木材はこれら3つが圧倒的主流です()。

 

実は、スペインでは二昔前まで、多種多様な木材でギターが作られていました。セファルディは既成概念に捕らわれることなく、様々な材質のスペインギターを復活紹介して行きます(&10)。

 

さて、”このギターは何の木のギターか?“と言う時、この側面板裏板の使用木材を指します。例えば、表面板ドイツ松で、側面板裏板ローズのギターであれば、それはドイツ松のギターではなく、ローズのギターだと言うことです。以下列挙します。

 

ハカランダ (別名中南米ローズ,Sp:palosanto de Río✿英:brasilian rosewood)

 

おそらく、世界で一番良く響くこの木はスペイン語でpalosanto(聖木)と呼ばれ、様々な高級木製楽器に使われます。ブラジル・アマゾン川支流ハカランダ川流域に生息するため、こう呼ばれますが(↑Ríoは川,スペイン語訳はハカランダ川の聖木)、伐採過多故に、ワシントン条約で絶滅種に指定されており、近い将来、この木のギターは高騰欠如必至です。クラシック&フラメンコギターに使用。

 

なお、近年、日本やスペインだけではなく、世界中のギター業界で、このハカランダと言う名称が消え、代わりに中南米ローズと記述される様になりました。早い話が、で述べる様に、広い意味で中南米のローズウッドの一種には違いない、ご禁制のこのハカランダをこう呼ぶことにより、当局との摩擦を避けている訳です。

 

セファルディでは、名工・故ベルンド・マルティンの最高級手工品を普通サイズ弦長650mmタレガモデル弦長640mmでご紹介しています。

 

ローズウッド(通称ローズ,Sp:palosanto de India✿英:indian rosewood)

 

同じくpalosantoですが、インド産。即ち、インド産ローズウッドローズブラジル産ローズウッドハカランダ(中南米ローズ)です。同じ科の木ですが、木目や木質が少し違います。音量音質の実力比は『10(ハカランダ)>9.5(ローズ)』位でしょうか。クラシック&フラメンコギターに使用。

 

但し、表面板の項で述べた様に、表面板の素材としては『ドイツ松』でも、製作家によってギターの出来が逆転する様に、側面板裏板でも『ハカランダローズ』と、ギターの出来映えの逆転現象は大いにあり得ます。例えば、私が今まで弾いた総てのクラシックギターで最高だと思ったのは、フレタ作の側面板裏板ローズ表面板。先輩の吉川二郎氏がコンサートや録音に使用する愛器はアントニオ・デ・トーレスのひ孫作で、側面板裏板ローズ表面板ドイツ松。そして、スペイン人フラメンコギタリスト、ラファエル・リケーニ氏がステージで使っていたギターを以前見せてもらいましたが、これも側面板裏板ローズ表面板ドイツ松でした。

 

今日、ハカランダ(中南米ローズ)の高騰故に、却って付加価値を付けて高く売ろうとする傾向が見られます。安易にハカランダの名前だけで判断したり、宣伝文句に踊らされないで、ローズでもプロを納得させるこの3例の如く、ハカランダを凌ぐギターは大いにあり得ますので、捜してみる価値はあります。名より実を取ることを心がけて下さい。実際、ローズを使っているプロは多いです。

 

最高のネタで素人が握った寿司より、必ずしも高価ではないネタで寿司職人の握った寿司の方が旨いことにも例えられます。使用木材(ネタ)の良し悪しより、ギター(料理)の出来映え(味&音色)で評価することが肝心です。

 

名工のハカランダのギターにもハズレはあります。勿論、これはハカランダローズだけではなく、総ての木材において言えることです。そして、それを実践して見せたのが、木材が乏しかった時代に数々の名器を造った近代スペインギターの開祖アントニオ・デ・トーレスです。

 

セファルディでは、若き名工フランシスコ・ムニョス(2018年国際ギター製作コンクール・アントニオ・マリン・モンテロ杯受賞)クラシックギターフラメンコギター(ローズドイツ松/杉)をお奨めします。とんでもない音量と音質です。

 

糸杉(シプレス,Sp:ciprés✿英:cypress)

 

ハカランダ(中南米ローズ)やローズが大砲とすれば、ヨーロッパ、中近東に多いこの糸杉はマシンガンに例えられます。カラッとした芯のある太い音で、フラメンコギターの定番木材です。

 

日本では”シープレス”と長母音表記ですが、実際は短母音で、”レ”にアクセントを置いて、”シプ”が正しい発音です。私はスペイン学科出身ですので、スペインギターだけではなく、スペインギターにまつわるスペイン語にも拘ります。

 

なお、糸杉材ではフラメンコギターしか作ってはいけないとの規則はありません。事実、故ベルンド・マルティン氏はヨーロッパの顧客向けに”糸杉のクラシックギター”を製作していました。セファルディでも糸杉のクラシックギターを紹介しています。

 

虎目かえで(Sp:arce rizado✿英:maple) スペインの白いギター

 

何世紀も前からバイオリン、チェロの本体に使われるこの木材で、何故ギターが作られないのか不思議な位ですが、YouTubeでも、たまにこの材質のクラシックギター(0:18より虎目かえで側面板が良く見える)&フラメンコギターを見かけます。

 

そこで、この虎目かえで材のギターを日本に普及させるべく、プルデンシオ・サエス社の協力を得て、スペインの白いギターと命名したこの木材のクラシックギター(146‐s)&フラメンコギター(ARF)を、各々、650㎜と630㎜の両弦長でご紹介します。各品番をclick願います。セファルディが最も力を注いでいるスペイン製普及モデルです。

 

手工品では、若き名工フランシスコ・ムニョスが氏の虎目かえでで仕上げた渾身のクラシックギターをお届けします。ハカランダのギターにも劣らない音量音質です。

 

くるみ(Sp:nogal✿英:walnut)          

 

ヨーロッパではリュートなど、古楽器製作に使われて来たくるみは、合板が存在しなかった頃のスペインの大衆ギターの素材として、盛んに用いられました。20世紀最高のクラシックギタリスト、スペインのアンドレス・セゴビアは修行時代ギターさえなく、グラナダのサクロモンテの丘のジプシーに借りたくるみギターで練習していたそうです。

 

くるみギターはスペイン独特のギターです。しかも、安い合板の台頭で使われなくなっている現在、スペイン国内でさえ希少価値のあるギターなのです。クラシック&フラメンコギタに使用。

 

それ故、セファルディくるみギターの復活と日本への普及にも力を注ぎます。まずは、お手頃な量産くるみギターをお試し下さい。そして、アンドレス・セゴビアのグラナダ市での常宿、ホテル・アルハンブラ・パレスの一室でこの話を直接聞いた、故フアン・ロマン・パディージャの晩年の力作、くるみ手工クラシックギターをご紹介します。

 

アフリカ糸杉(Sp:ciprés africano✿英語?)

 

フラメンコギター木材の定番であるのスペイン産糸杉(シプレス)ではなく、その木質の似通っているが故に、スペインの大工の世界で通称アフリカ糸杉と呼ばれる木材。

 

幼少期より大工の父と共に、ありとあらゆる木材に親しんで来たフランシスコ・サンチェス氏は、これでギターが作れないはずがないとの確信の元、2010年、世界初のアフリカ糸杉フラメンコギターの製作に着手。糸杉とはまた違った、乾いた軽快な音質でフラメンコギターに新境地を開きます。

 

なお、フランシスコ・サンチェス氏は私と同年で、セファルディの良き理解者でもあります。

 

アベバイ(Sp:abebay✿英語?)    

 

マホガニ科のアフリカ産木材。同じくフランシスコ・サンチェス氏が乾いた音色のクラシックギターを目指して製作しています。

 

清涼感と言う、新しいクラシックギターの概念に挑戦する一振りです。

 

モンゴイ(Sp:mongoy✿英語 ?) 

 

アフリカ産の木材。スペインでは通常家具作りに使われますが、私はフアン・ロマン・パディージャ氏()の極上の一本を所有しています。少なくともこの一本に関しては、ハカランダのギターと遜色ありません。

 

ある日、故ベルンド・マルティン氏が自宅に遊びに来た際、このギターを試奏し、いたく気に入り、この時、表面板に少しキズを残して行ってくれたことは、今となってはいい思い出です。

 

パディージャ氏によれば、二昔前のスペインでは、このモンゴイでギターが盛んに作られていたそうです。そして、2010年年明けに、名工・故アントニオ・ラジャ・パルドの手工品が完成しました。弦長650mm&645mm(トーレスモデル)。

 

サペリ(Sp:sapelly✿英:sapele)

 

スペインにおける合板ギターの定番木材。セファルディでは最も安いモデル4A&4AFに使用しています。近い将来、昔は良く作られていたサぺリ単板ギターを復活させる予定です。

 

その他、二昔前のスペインでは、マホガ二プラタナスなど、様々な木材のギターが存在しました。

ハカランダローズは横綱の貫禄。糸杉はスペインの乾いた風。清涼感の虎目かえで。軽さに味のあるくるみ・・・。あれがこれに勝ると言うのではなく、それぞれ違った音色なのです。 

以上、硬くて十分乾いた木材なら、何でも楽器製作は可能だと言えます。そして、二昔前までスペインでは実際これらの木(9)でギターが作られて来ました。それが、現在、商業主義の影響で、使用木材がに集中してしまっているのです。セファルディでは、今後も、様々な材質のスペインギターを復活発掘し、日本に紹介して行きます。

 

10 黒檀(Sp:ébano✿英:ebony)

 

おそらく、水に沈む唯一の木であろう黒檀は比重が重いだけではなく、極めて硬く、(側面板を)曲げ難く、まず、黒檀のクラシックギターを作ってみようと言う発想自体が通常の製作家には思い浮かびません(歴史上、探せば、誰かいたのでしょうが)。

 

また、知り合いの日本人アマチュア製作家によれば、2024年現在、指板用の黒檀を注文しても、高価な割に、品質が良くない、つまり、世界的に品不足で高価です。

 

しかし、私がグラナダ在住時分のデビューの頃から注目していた、フランシスコ・ムニョス氏は、その約10年後、何と、総黒檀製クラシックギター(表:ドイツ松)を2018年国際ギター製作コンクール・アントニオ・マリン・モンテロ杯に出品し、複数の有名ギタリストの手によって奏でられた結果、名工アントニオ・マリン・モンテロの眼前で優勝しました。ムニョス氏は、これを心の師アントニオ・マリン・モンテロ氏への尊敬の念を込め(実際は師弟関係なし)、Homenaje(オメナッヘ:敬愛)と命名。セファルディでは、この総黒檀製Homenaje(オメナッヘ)モデル[品番FAE]をご紹介しています。

 

因みに、ムニョス氏は、既に、今治の当店を2度訪れています。宿泊は今治球場横の店長の家。歴史的円安が終われば、また、招聘する予定です。知り合った頃は20代だった氏も、既に、40代後半。時の流れとは凄まじいものです。

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以上、表面板、及び、側面板&裏板の木材を見て来ましたが、例えば、ボディーは全く同じでも、表面板かで音質は違って来ます。また、ボディーも薄目なら乾いた音、厚目なら重厚な音のギターになるはずですが、故マヌエル・カーノ先生の愛器エンリケ・コントレラスのボディーはクラシックギターの如く分厚く、フラメンコギター独特の乾いた音色で、私がフアン・ロマン・パディージャ氏に作ってもらったローズの極薄ギターはかなり甘い音質です。この様に、出来上がってみればセオリー通りの音色ではない場合も多々あります。

 

それ故、単に、木材やサイズだけでギターの出来を論ずることは軽率でさえあり得ます。冒頭に述べた様に、料理は食材の良し悪しではなく、出来上がった料理です。同様に、ギターは使用木材の一般論ではなく、最後は、目の前の完成品のギターの音色で判断して下さい。

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