スペインギター[職人&製作所]紹介
セファルディ提携のスペイン人ギター職人(全員ではありません)、及び、製作所をご紹介します。
フランシスコ・ムニョス(グラナダ/ギター製作界の次代の旗手)
フランシスコ・ムニョスは本名フランシスコ・ハビエル・ムニョス・アルバ。前2つが名前(欧米人特有の複合名)で、第1名字(父方第1名字)、第2名字(母方第1名字)と続きます。2018年までFrancisco Alba(フランシスコ・アルバ)のラベルで製作して来ましたが、同年8月、タイ、メキシコ、アメリカ、スペイン、フランス、日本、オランダ、中国、イタリアより23人のギター制作家が参加した国際ギター製作コンクール、アントニオ・マリン・モンテロ杯で見事優勝。21世紀の名工列伝に実力で名を連ねたこの機会に、ラベルをFrancisco Muñoz(フランシスコ・ムニョス)と改めました。
写真(click拡大)は左から表彰状(中央に赤字でAntonio Marin Montero,その下に黒字の斜体でFrancisco Muñoz Alba,その下にPRIMER PREMIO”優勝”)、中央に表彰状を手にするアントニオ・マリン・モンテロ氏、右は表彰状の授与式でのお二人。
ご覧の様に、スペイン人は、父親の第1名字を第1名字、母親の第1名字を第2名字とします。つまり、まだ幼い氏の息子の第1名字は氏の第2名字のアルバではなく、第1名字のムニョス(&第2名字は母親の第1名字)となり、息子の氏名にアルバ姓は継承されません。そこで、将来、息子がギター製作家となった場合、氏の名声を受け継げるよう、今回の受賞を機に、ラベルの氏名の名字をアルバから、親子共通の名字のムニョスに変更しました。親心です。私はグラナダ在住時代より、氏の第1号ギターから15年間、フランシスコ・アルバのギターを日本に紹介して来ましたが、今後は、フランシスコ・ムニョスのラベルのギターを日本に紹介して行きます。氏のギターがセファルディのメインです。
フランシスコ・ムニョスは1977年、ギターの名曲”アルハンブラ(宮殿)の想い出”で有名な南スペイン・グラナダ市のアルバイシン地区出身。20代半ばで製作し始めた頃から、新人とは思えない艶のある音質のギターを生み出し、私は目を掛けていました。その実力の割に、今回の受賞で世に出たのが41歳と遅かったのは、家族親族にギター製作家がおらず、父親が有名製作家で、すぐに世に認知される二世製作家の境遇ではなく、名を売ることが困難だったからです。
氏はギター製作のみならず、人並み外れて手先が器用で、宝石細工、大工仕事、建具、家具作りから、水道、電気、時計、パソコン、携帯電話に至るまで、何でも器用に細工、修理します(私もグラナダ在住時代、ギター以外でも色々お世話になりました)。子供の頃も、玩具を買ってもらうと、必ず分解して、仕組みを解明しなければ気が済まなかったそうです。氏のギターと今回の受賞は、こうした比類なき才能とセンスの結晶でもあります。
氏の作品は、それまでにも、独特の”乾いた重さ“の角を取った様な円やかさに加え、バカでかい音量でしたが、更に、独自の力木の配置など、研究を重ねた新しい構造のギターで今回の受賞を果たしました。加えて、スペイン人でありながら、ジプシーの血(祖母)を引くフランシスコ・ムニョスの独特の感性が、他のスペイン人製作家とは一線画す、この独特の乾いた艶のある作風を生み出しています。また、音量音質のみならず、木製工芸品としてもまた、その優美なフィニッシュは氏の類稀な木工センスの良さと卓越した手先の器用さを感じさせてくれます。
さて、アントニオ・マリン・モンテロ杯は、グラナダの世界的名工アントニオ・マリン・モンテロ氏のこれまでの業績を称えたもので、既に高齢のマリン氏の名を後世に残し、若い世代の製作家を啓蒙する主旨です。故マヌエル・カーノ先生はギター取集家としても有名でしたが、私もレッスンを受けたグラナダ市郊外の自宅のコレクションには、マリン氏のギターが時代順に3本ありました。1988年頃だったでしょうか、先生は私の前で3本弾き比べ、「時代を追って良く鳴っている。これが製作家の進化だ。後の連中は皆、停滞している。」と絶賛しました。
そのマリン氏も既に91歳。今後のグラナダのギター製作界を展望するに当たり、三大巨頭はと言えば、マリン氏、そして、名実共にマリン氏を凌ぐ、甥のパコ・サンティアゴ・マリン氏も既に76歳、そして、私が個人的にグラナダ一の名工だと思っていたベルンド・マルティン氏ですが、マルティン氏は2018年没。息子のルカス・マルティンの中南米ローズのギターが今、手元に有りますが、音もフィニッシュも父親には劣ります。この3人に、グラナダ在住当時、私も良くお世話になったアントニオ・ラジャ・パルド氏が続きますが、2022年72歳没。息子のアントニオ・ラジャ・フェレールのギターは、私は2本目から買っていますが、父親には劣ります。
以上の現状を鑑みれば、グラナダのギター製作界の次代の旗手は、私は個人的にフランシスコ・ムニョスだと確信しています。音量音質もですが、他の誰よりも木工センスの良さを感じさせます。何より、今も若手製作家が助言を求めてマリン氏を訪れる中、マリン氏自身がフランシスコ・ムニョスに一番目を掛けている現実です。
フランシスコ・ムニョスはギター製作の手解きをビクトル・ディアスから受けましたが、手先の器用な氏は、第1号を共同制作して後(私が購入しました)、すぐに独立して、アントニオ・マリン・モンテロ氏の工房の近くに工房を構えました。両者に師弟関係はありませんが、マリン氏もまた、フランシスコ・ムニョスの才能に早くから気付き、他のどの若手の製作家より目を掛け、折に触れて自らの体験やアドバイスを語っていたのを、当時グラナダに住んでいた私も良く覚えています。
今回、フランシスコ・ムニョスが受賞したギターの構造は、長年研究して、何本も試作した挙句の構造です。この話を直接聞きながら、私は近代ギターの父アントニオ・デ・トーレスのひ孫、故フアン・フランシスコ・サルバド-ル・ヒメネス氏(2010年没)を想い出しました。マヌエル・カーノ先生と先輩の吉川二郎氏の繋がりで、私もひ孫とは親しくさせて頂き、未だに曽祖父トーレスの工具が保存されている、アルメリア市郊外の自宅の工房にも何度か伺いました。ある時、ひ孫は、製作中の表面板の説明をしてくれました。正直、専門的過ぎて、スペイン語の細部までは分かりませんでしたが、力木の材質、形状、サイズ、その配置の意味、通常より遥かにラウンドした表面板、その作成方法など、懸命に説明してくれました。因みに、ひ孫は、側面板は熱ではなく、水に浸して曲げていました。
フランシスコ・ムニョスのギターは、その同様の探求心の賜物です。詳細や(((音源)))は次に列挙する各ギターのページをご覧下さい。
クラシックギター✿FAE(黒檀*Antonio Marin Montero杯受賞ギター):FAJ(中南米ローズ):FAAR(虎目かえで):FAI(ローズ):FAIa(ローズ,側面板にホール):FARC(糸杉.シプレス製ロマンティックギター):FARJ(中南米ローズ製ロマンティックギター):FAR(中南米ローズ製ロマンティックギター小)。
フラメンコギター✿FAC(糸杉.シプレス):FAIF(ローズ)。
さて、今治市は遠い方には遠いですが、是非とも、祖国日本全国の方々にフランシスコ・ムニョスのギターを試奏して頂きたいと願っています。そこで、愛媛県外の方にお知らせです。愛媛県今治市のセファルディにご来店の上、フランシスコ・ムニョスのギターお買い上げの方には、往復の交通費を定価から差し引きます(お1人様のみ,車ならガソリン代+高速料金)。まず、在庫の有無をお尋ね下さい(0898-35-3679, sefardi_guitarra@adagio.ocn.ne.jp)。絶景の瀬戸内海のしまなみ海道(今治-尾道)、タオル美術館(今治はタオル生産日本一)、加計学園獣医学部など、観光もかねておいで下さい。道後温泉の松山まではJR特急で35分(車で1時間)。今治への陸路、空路、海路による詳細なアクセス情報はご来店の皆様へをご覧下さい。また、遠方からおいでの方には、金曜日夕刻~土曜日夕刻以外の時間帯であれば、何曜日の何時でも、早朝でも深夜でも店内対応致します(同ページ参照)。
フランシスコ・サンチェス
スペイン・セビージャ県のオリーブ畑に囲まれた片田舎で、黙々とギター作りに励む孤高の製作家。趣味でギターを作っていた大工の父から、少年期に手ほどきを受けた以外は全くの独学。
生涯目にした5本のマルセロ・バルベロ一世のギター(クラシック1&フラメンコ4本)に感銘を受け、表面板や力木など、その工法を多いに取り入れ、ハカランダ、ローズ、糸杉は勿論、更なる研究のため、通常、ギターには無縁の様々な木材での製作にも取り組む。
店長とは同い年であり、セファルディの良き理解者でもある。セビージャ県出身。製作歴35年。
以上は2015年頃の文章ですが、近年、フランシスコ・サンチェス氏は、クラシックギター製作の一方で、スペインのフラメンコギター界で極めて著名となり、2022年より、大手フラメンコギターサイトSolera Flamencaの専属顧問となり、2024年現時点、氏のギター小売価格は、読者がこのスペインのサイトをclickした時点でどう変わっているかは分かりませんが、ご覧の様に、6800ユーロ。幾ら歴史的円安時代とは言え、2024年6月時点の交換レートで換算すると、何と約117万円。スペインで国内での小売値です。これを日本に輸入すると、関税+送料が上増しされます。
今のところ、長い付き合いなので、まあまあ今回は…と卸値を抑えてもらってはいますが、聞けば、このSolera Flamencaへの卸値の方が、私へのそれより、遙かに高いです。友達なので…と言うのも、そう遠くない時点で終わるのかなと予感しています。
従いまして、以下のフランシスコ・サンチェス氏のギターは、今後、クラシック、フラメンコを問わず、かなりの高額となり、遂に、私が金銭的に付いて行けなくなった時が来れば、氏と私の長年のビジネス関係も終焉を迎え、氏のギターも日本市場から消えることになります。
フランシスコ・サンチェスのギターの詳細や(((音源)))は、以下の各ギターのページをご覧下さい。
クラシックギター✿FSA(アベバイ)&ローズ新作2024末入荷予定。
フラメンコギター✿FSC(糸杉.シプレス&ドイツ松):FSG(糸杉.シプレス&カナダ杉):FSCA(アフリカ糸杉&ドイツ松):FSja(ハトバ&ドイツ松)。
フェルナンド・モレーノ
フェルナンド・モレーノはカディスのギター工場バレリアーノ・ベルナールのグラナダ店(現在は消滅)の雇われ店長時代、故アントニオ・アリサ、アントニオ・マリン、ビクトル・ディアスの師事を仰いだ後、故郷セビージャ市郊外に工房を構えている。フラメンコギター専門の若手製作家。
温厚な性格とは全く裏腹な、マシンガンを思わせる、鋭いが、野太く乾いた音色のフラメンコギターは、確実に地元のスペイン人ギタリストに浸透しています。製作歴 20 年。
プルデンシオ・サエス(Prudencio Saez)社
1963年バレンシアで創設されたギター製作所。セファルディの各種普及モデルを担当。
現在は3代目のプルデンシオ・サエス・マリンが祖父、父の後を継ぐ。
現在、多数の有名スペインギターメーカーが中国に作らせ、自社製として世界に売り捌く中、スペイン製に拘り続け、孤軍奮闘する。冒頭の写真の如く、生前のパコ・デ・ルシアと兄ラモン・デ・アルへシラスとは親交が深かった(下写真3枚目)。
プルデンシオ・サエス社のギターは世界中で高評価を得ています。
https://www.youtube.com/watch?v=f6Lxl1tcR1s
https://www.youtube.com/watch?v=SpIHOOvky4k
なお、プルデンシオ・サエス・マリン現社長はスペインサッカー元一部リーグ選手。ギターメーカーとしては異色の経歴です。1992年ラージョ・バジェカーノ所属時代には、レアル・マドリードに2-0で勝利しています。写真左はスペインサッカー選手名鑑より。その右前列左から5人目(真後ろは1998年にスペイン代表チーム監督となるカマチョ氏)。
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